神奈川県逗子市の急斜面の尾根に建つ個人住宅である。地上20m、傾斜42度の急斜面の地形を活かし、一方に海、反対側に街並みが一望できるように配置した。

急斜面に極力影響を与えないよう、着地する柱を最小数とし、基礎の掘削量を減らす工法とした。難解な工事を実現するために等高線に沿って通り芯を決め、無理のないスパンで独立した柱が床を支え、シンプルな梁と屋根を架けるだけのプリミティブな構造体を採用した。外壁は、構造壁以外は一切余分な壁をつくらず、眺望を最大限に取り込む。サッシの両側には張り出したテラスで広さと浮遊感を与えた。

20m 下からのアクセスは、100段を超える階段と家具の搬入等を可能にするモノレールしかない。生活のテーマは「間取りの外」である。ここでは都会の生活で強いられる「決められた間取りの中にどうモノを配置するか」は問題とならない。全く反対の「広大な自然の中に小さな家を建て、その外側に想いを巡らせる」家で、毎日、登り降りを楽しみ、海を眺め木立に囲まれ、小鳥がさえずり、都会の喧騒を一切感じさせない静かな環境を満喫している。