この資料館は135年前の創業社屋を改修し、企業の発展の背景と製品開発の歴史を伝える資料館である。企業をより深く理解してもらう場として、創業の精神と雰囲気が感じ取れる空間づくりが求められた。
外観には一切、手を加えていない。内部は近年手が加えられ隠されていた構造材を現しとして、創業当時の空間そのものを展示として造作を行った。造作は、天井まで達せず、上部に梁や屋根等、既存建物の要素を見せた。改修に伴い室内に現わした土台の煉瓦やステンドグラス、煙突、和室もまたそのまま展示した。特に創業者の書斎であった和室は当初の雰囲気を伝える展示の中心的役割を担う。造作として新しく追加した要素は、極力その存在が消えるよう配慮し、耐震壁はすべて既存壁と展示壁の裏側に配した。展示台は鏡面仕上げとした。
創業の庭からのアプローチ、骨太な構造体と社訓や大切な製品が展示されるエントランスギャラリー、創業者の書斎である和室までの空間構成により、ゆっくりと時間を遡る。京都を創業の地とする企業に相応しく、既存要素と新設した展示の対比が時の流れを感じさせる、抑制のきいた空間を目指した。